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T細胞の抗ウイルス応答が抗腫瘍免疫を誘導「病原体センサーSTING」

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感染症やがんの新たな治療法の開発に期待

 

理化学研究所 2019年1月30日プレスリリースより抜粋

T細胞の抗ウイルス応答が抗腫瘍免疫を誘導 | 理化学研究所

 

国際共同研究グループは、T細胞の病原体センサーが抗ウイルス応答を誘導し、抗腫瘍免疫に重要な役割を果たすことを明らかにしました。

 

ウイルスや細菌が私たちの体の細胞の中(細胞質)に侵入すると、病原体センサーの「STING」が感知し、Ⅰ型インターフェロンの産生を介して抗ウイルス応答を誘導し、病原体を排除することが知られています。この抗ウイルス応答は、主に樹状細胞やマクロファージなどの自然免疫を担当する細胞が行い、その後の抗原特異的な獲得免疫を誘導すると考えられています。さらに、STINGの活性化は感染免疫応答だけでなく、抗腫瘍免疫にも重要な役割を果たすことが報告されています。

 

国際共同研究グループがT細胞におけるSTINGの発現を調べたところ、T細胞は自然免疫を担う樹状細胞と同じ程度にSTINGを発現していることを見いだしました。そこで、T細胞がSTINGのリガンドのcGAMPに反応して、Ⅰ型インターフェロンを産生できるかを調べた結果、自然免疫細胞とは異なり、ナイーブT細胞をcGAMPだけで刺激しても、Ⅰ型インターフェロンは産生されませんでした。しかし、T細胞を活性化するT細胞抗原受容体(TCR)の刺激とともにナイーブT細胞をcGAMPで刺激すると、多量のⅠ型インターフェロンを産生することが分かりました。さらに、ナイーブT細胞が分化したエフェクターT細胞(Th1細胞や、ウイルスや腫瘍の排除に重要な活性化したCD8T細胞)を同様に刺激すると、自然免疫細胞の10倍も多量のⅠ型インターフェロンが産生されることが分かりました。興味深いことに、TCR刺激で誘導されるT細胞の増殖がcGAMP刺激により強く阻害されました。

 

そこで、STINGの活性化によるT細胞の増殖阻害のメカニズムについて調べました。TCR刺激によるT細胞の増殖シグナルには、栄養センサーのmTOR複合体1(mTORC1)の活性化が必須であるため、cGAMP存在下におけるmTORC1シグナルの活性化を調べました。その結果、mTORC1の下流で働く分子(4E-BP1、S6キナーゼ1)の活性化が、cGAMP刺激により部分的に阻害されることが分かりました。さらに、Ⅰ型インターフェロン受容体の阻害抗体存在下では、cGAMPによるT細胞の増殖が部分的に回復することから、T細胞から産生されたⅠ型インターフェロンもT細胞の増殖阻害に関与していることも明らかになりました。

 

また、cGAMPによるⅠ型インターフェロンの産生にTCRシグナルが必要なメカニズムを調べました。その結果、Ⅰ型インターフェロンの産生に必須の転写因子[14]IRF3が、TCR刺激により持続的に活性化されることが明らかになりました。さらに、mTORC1の阻害剤ラパマイシンの存在下では、TCRとcGAMP刺激によるⅠ型インターフェロンが全く産生されなくなることから、cGAMP刺激によるⅠ型インターフェロンの産生にTCR刺激によるmTORC1の活性化が必要であることが明らかになりました。

 

腫瘍を移植したマウスにcGAMPを投与すると、Ⅰ型インターフェロンの産生を介して腫瘍の成長が強く抑制されることが報告されています。そこで、cGAMPの抗腫瘍効果におけるT細胞のSTINGの役割を調べるために、T細胞のないRAG1欠損マウスに正常T細胞またはSTINGを欠損したT細胞を移入したマウスを作り、cGAMPによる抗腫瘍効果を検討しました。その結果、STINGを欠損したT細胞を移入したマウスでは腫瘍の増殖が早く、生存率が低いことが観察されました。このことから、T細胞のSTINGがcGAMPの抗腫瘍効果に重要であることが分かりました。

 

cGAMPは、感染や腫瘍の局所での死細胞などから放出されることから、局所における病原体や腫瘍に特異的なT細胞のSTINGを活性化して、Ⅰ型インターフェロンを産生させ、抗ウイルス・抗腫瘍免疫に貢献していると考えられます。

 

補足説明

1.T細胞

免疫細胞の一種。細胞表面に発現するT細胞抗原受容体を介して、樹状細胞などの抗原提示細胞が提示する抗原情報を認識し、活性化する。活性化したT細胞は直接他の細胞と相互作用し、また、サイトカインと呼ばれる液性因子を分泌することで、B細胞や他の免疫細胞の細胞分化や機能を調節する。分泌するサイトカインの種類や局在場所の違いによって機能が異なる。


2.Ⅰ型インターフェロン
ウイルス感染で誘導される抗ウイルス系のインターフェロンファミリーで、インターフェロンαとインターフェロンβで構成される。ウイルス感染細胞に作用し、ウイルス由来のmRNAやウイルスのタンパク合成を阻害することにより、ウイルスの複製を抑制する。


3.樹状細胞
皮膚組織や粘膜に存在し、表面に多くの突起を持つ自然免疫を担う免疫細胞。異物を取り込んで活性化するとリンパ節や脾臓などの二次リンパ器官に移動して抗原特異的なT細胞に抗原を提示し、T細胞を活性化する。


4.マクロファージ
体内に侵入した異物を取り込み消化すること(貪食作用)を主な役割とする自然免疫を担う免疫細胞。


5.自然免疫、獲得免疫
自然免疫は、体に侵入してきた病原体を迅速に感知し、感染初期の生体防御を誘導する機構で、樹状細胞やマクロファージなどが担当する。自然免疫の活性化はその後の獲得免疫の発動にも重要である。獲得免疫は、病原体に感染することにより後天的に形成される免疫で、高度な特異性と病原体の記憶を特徴とし、同じ病原体に感染した際に病原体を効率よく排除する。主にリンパ球のT細胞とB細胞が担当する。


6.パターン認識受容体
病原体に特有の分子パターンを認識する受容体で、Toll様受容体(TLR)、RIG-I様受容体(RLR)、NOD様受容体(NLR)、C型レクチン受容体(CLR)などがある。


7.環状ジヌクレオチド
細菌に特有の細胞内シグナル伝達物質である環状ジアデノシンリン酸(c-di-AMP)や環状ジグアノシンリン酸(c-di-GMP)などの総称で、STINGを活性化することが知られている。


8.cGAMP
環状GMP-AMPの略称で、ウイルス由来のDNAがcGAMP合成酵素(cGAS)に認識されることにより、合成される。cGAMPは、STINGに結合することにより抗ウイルス応答を誘導する。


9.自己免疫疾患
免疫系に異常をきたし、自分自身の正常な細胞や組織を異物として認識して、攻撃することにより起こる疾患の総称。代表的なものに関節リウマチがある。


10.ヘルパーT細胞
免疫応答に関与するリンパ球、T細胞の一つ。抗原の情報をB細胞へ伝えて抗体の産生を誘導したり、免疫応答を誘導する液性因子を放出したりすることにより、免疫反応の司令塔として働く。


11.ナイーブT細胞
ナイーブT細胞とは、抗原にさらされたことのないT細胞のことで、抗原提示細胞からの抗原刺激を受けることにより、活性化され機能分化したTh1細胞やTh2細胞などのエフェクターヘルパーT細胞に分化する。Th1細胞は、細胞内に寄生する細菌やウイルスなどの病原体の排除を促すエフェクターヘルパーT細胞の一種。Th2細胞は元来、細胞外に寄生する寄生虫などの排除を誘導するエフェクターヘルパーT細胞であるが、花粉やハウスダストなどの異物に対してもアレルギー反応を誘導することが知られている。


12.T細胞抗原受容体(TCR
T細胞の細胞表面に発現する受容体で、抗原提示細胞の細胞表面に提示される主要組織適合抗原複合体(MHC)タンパク質と抗原の複合体を認識して、T細胞を活性化する。


13.mTOR複合体1(mTORC1)
mTORは、エネルギーや栄養、増殖因子などの環境シグナルに反応して活性化が調節されるタンパク質リン酸化酵素で、複数のタンパク質による複合体mTORC1およびmTORC2を形成する。mTORC1は、リボソームの生成とタンパク合成経路を活性化するとともに、タンパク質分解を抑えることにより細胞の増殖を促進する。


14.転写因子
DNAに配列特異的に結合し、遺伝子の発現を制御するするタンパク質。


15.RAG1
TCRや抗体の遺伝子の再構成に必要なタンパク質で、このタンパク質を欠損するとT細胞とB細胞を欠損した免疫不全症になる。


16.免疫チェックポイント阻害薬
T細胞の活性化を抑制する共刺激分子(PD-1、CTLA-4)およびそのリガンドに結合し、その作用を阻害する抗体の総称で、T細胞の免疫抑制を解除することにより、抗腫瘍免疫応答を増強する。